2007年度 - 再チャレンジ支援教育プログラム

平成19年度文部科学省委託事業 社会人学び直しニーズ対応教育推進事業
Phase2:研究講座

2008年1月27日

【研究講座】食と農による社会起業を世界の事情から考える    
国際スローフード協会 日本担当理事 ジャコモ・モヨーリ

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実施記録:
 教員(西村)から講師の紹介と、通訳の石田雅芳氏(日本スローフード協会)の紹介。その後1時間の講演がなされた。講演の要旨は以下のとおりである。
 まず、農と食の分野において、それぞれが専門家になりすぎることに対して警告が述べられた。イタリアの食科学大学(The University of Gastronomic Sciences)での新しいプロジェクトとして、「新しい食のプロジェクトを発想できる人材を育てる」ための新設コースの説明がなされた。講義にも重点をおいたもので、「食の新しい戦略デザイン」となるものである。また、食科学大学についての背景や取り組みが述べられた。そこでは主に人材育成がなされており、コミュニケーション技術を育て、経済的スキルをつけ、食の話をしながら社会的な話をしていくことにより、農業科学における新しい考え、さらに生産へのアプローチそのものを変えるなどがあげられた。総じてプロジェクトの立ち上げ方、またそのものを考えられる人材を育てるということであった。
 続いて事例として、トリノにあるスーパーマーケット「Eataly(イータリー)」が取り上げられた。3年がかりで作っていった経緯が紹介され、違う分野の人との連携など日本にも参考になることが示された。正しい労力に見合った価格が設定され、生産者を主役として伝えている。売ったらおしまいではなく、食べ物について、農業について、コミュニケーションできる場を創造した。そこには、知識を得たい、調理法などを知りたい、そんな人たちが集える場となっていて、そこにはシェフがいて試食もできるという。さらに、スーパーで働く人にも教育を始めている。お店の中で実現したいこととして「日常性」をあげている。それは生活のレベルを上げていくことであるという。たまにおいしいものを食べる贅沢ではなく、トレーサビリティーを明らかにして、正しいお店で正しい情報を知ることで実践されていく。この事例からは、①実際の地域の中でリサーチしてものごとを考える。②食の教育を推進しなければならない。③この店の成功は地域の多用な食材をプロモートした。④消費者は食品を選ぶ主役である。⑤文化の交流、情報を得る場であるとし、人間関係の倫理的な輪を広げていると言えるだろう。
 もう一つの事例として紹介されたのは、人里離れた場所にある小さな(ピッコロ)レストランであった。常に予約で満席であるそのレストランは、周辺20km圏内の「小生産者」のものを食材として利用している。成功している要因としては、高いクオリティーを維持しながら経営していくことをあげた。具体的には、席を増やさない、営業時間を短くする、スタッフの育成に時間をかけるなどである。また、エネルギー、水、ごみ、環境との調和など、持続性のあるプロトタイプを作り出す、そして、そのことをジャーナリストが興味を持ち記事に書くことによる「戦略デザイン」があるのだという。そこのお野菜がおいしかったから、小生産者の元を訪ねて家でも食べたいと買って帰るといった動きが生まれている。そのような、ネットワークに小生産者がつながり、消費者との関係を持っていくことを具体的な提案として示しているのである。
 このようなことからは、消費者の世界の中に「現実」に仕上げていくことの具体性、新しい解決法を革新的に考えていく必要性が求められていると言える。加えて、流通やコミュニケーションの問題も重要な視点である。レストランに対しても、この戦略を教育していくような、学際的な頭脳を有するのがガストロノミーだと述べた。そこには未来があると考える若者が多くなってきている。小さな知識を融合していくことで、新しい農業から提案メッセージ、そして、伝承に裏打ちされたものをポジティブに捉えていくために、生産者会議「テッラマードレ」がある。
 事例にあげている「Eataly(イータリー)」の成功には、食育の場があることで消費者が変わっていったことを強調し、共生産者[Coーproducer]として意識していくことであると示した。それは、素晴らしいと話をするだけではなく、方法論を持っている人なのだと言う。「○○さんの野菜がおいしいから勝手食べる」だけでなく、 食べておいしい、考えておいしいものにならなくてはいけないのだ。彼の野菜を食べるとき、お皿の上にのせるというだけでなく、彼のアイデア、プロジェクトに対しての共生産者[Coーproducer]となっているのだ。
 最後に、問題意識として、それぞれの国でみられる近代の生産活動を指摘した。その生産活動は、地球を汚染している大きな理由である。解決に向けては、南の世界からの生産活動に大きなヒントがある。深い伝統と新しい要素によって、方法論やモデルが抽出されていくのではないかと述べ、講演を締めくくった。

実施後の感想等:
 食科学大学の説明に加え、イタリアでの先進的な事例が紹介され、食に関心のある受講生にとっては学びの多い内容であった。共生産者[Coーproducer]の概念を示されたことで、食や農の新しい可能性を見出すことにつながるのではないかと考えられる。質問にあがった、自給への視点もイタリアでも大きなテーマとなっていくであろうと指摘し、近代社会のなかでは時間の使い方であるし、人生における生活のクオリティーであるとした姿勢からは、食への情熱が推測できた。新しい食べ物の考え方、生活の仕方、仕事の仕方など、自分のライフスタイルの問題でもある。本講演からは、「新しい社会をつくる」ということにいちばんに結びつくのは、「新しい仕事をつくる」ことであると言えるのではないか。受講生が起業へ向かう際に必要な「軸」を考えるために、大いに参考になる内容であった。(西村和代)

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